「政治の力で潰された」 元メタ幹部がDiem失敗の舞台裏を告白

メタ(Meta)のデイビッド・マーカス(David Marcus)元プロジェクト責任者は11月30日、暗号資産(仮想通貨)プロジェクト「Diem(旧Libra)」の失敗について、政治的な圧力が原因だったと明かした。
Diemは、メタが2019年に発表したステーブルコインプロジェクト。複数の法定通貨を裏付けとし、同社の30億人規模のユーザー基盤を活用した国際送金システムの構築を目指していた。
世界規模の決済システムを目指した同プロジェクトは、政府当局の介入により頓挫していた。
28社と共同発表、2年かけ規制対応
プロジェクトは2019年6月、決済大手のビザ(VISA)やマスターカード(Mastercard)など28社とともに発表された。マーカス氏のチームは、米国内外の規制当局との対話を重ね、マネーロンダリング対策や消費者保護など、各種の規制要件への対応を進めた。
2年に及ぶ調整の結果、2021年春には全ての規制をクリア。米連邦準備制度理事会(FRB)の一部理事も支持を表明し、パウエルFRB議長も小規模な試験運用を認める方針を示していた。
イエレン長官の圧力で一気に頓挫
転機は財務省との会合で訪れた。米財務省が定例会合で、プロジェクトの承認は政治的な自殺行為になるとする見解を示した。
その後すぐに、FRBは参加予定の銀行各社にプロジェクトの進行を止めることはできないものの承認はできないとする方針を伝達。これにより、プロジェクトは事実上の終了となった。
マーカス氏は、法律や規制の面での問題は皆無であり、銀行への圧力による完全な政治的判断だったと指摘した。
プロジェクトは2022年1月、仮想通貨事業に注力していたシルバーゲイト(Silvergate)銀行に売却された。世界規模の決済システムを目指した当初の目標は大きく後退し、米国での限定的なサービスを目指す計画に縮小されていた。
しかし、同行も1年後にプロジェクトを断念し、投資額を全額失う結果となった。
開発チーム解散、新プロジェクトへ
マーカス氏は現在、この経験から「世界中で使える送金の仕組みは、誰の支配も受けないビットコイン(BTC)をベースにすべきだ」との教訓を得て、新会社「ライトスパーク(Lightspark)」でビットコインの送金機能を改良する事業を始めている。
開発チームの多くは、メタが作ったプログラミング言語を使う新しいブロックチェーン「アプトス(Aptos)」と「スイ(Sui)」の開発に移行。特にSuiは、TVL(総ロック価値)が11月に入って10億ドルを突破し、トークン価格も1.8ドルの最高値を記録するなど、急速な成長を見せている。
一方で、このプロジェクトの失敗は、大手IT企業による金融サービス参入に対する米政府の強い警戒感を浮き彫りにした形だ。
米政府は2021年11月の報告書で「ステーブルコイン発行者とIT企業の結びつきは、過度な経済力の集中につながる可能性がある」と指摘。テクノロジー企業の金融サービス参入に対する規制強化の姿勢を示していた。